不正性器出血|clila疾患情報

記事要約

【目次】

1.不正出血とは
2.原因
3.相談の目安
4.疫学的整理
5.海外動向
6.重症化しやすい場合
7.検査・診断の方法
8.検査・診断の難しさ

 

1.不正性器出血とは

 子宮は、月経周期が存在する年齢において、生理的に出血を起こす唯一の臓器であり、正常な範囲の月経出血の特徴は以下の通りです。

  • 周期:24〜38日
  • 月経周期の変化は、7〜9日以内で起こりうる。
  • 出血量:5ml以上、80ml以下(*臨床的な過多出血の定義は、女性の心身および社会的な生活の質に悪影響を及ぼす程度の出血とされています。)
  • 出血持続期間:8日以下

上記のような生理的な月経出血の特徴から逸脱する出血のことを、不正性器出血といいます。

 また不正性器出血は、月経周期のない初経前や閉経期の女性にも起こることがあります。

出血源は、子宮、卵巣や卵管など付属器、その他子宮周辺の臓器等が考えられます。出血の理由や程度は、年齢や基礎疾患の状況等によって様々です。

 通常は、不正性器出血があることで命の危険に晒されるようなことはあまりありませんが、原因が解決されないまま出血が続けば、貧血となり、貧血の症状(全身倦怠感、動悸、息切れ等)が日常生活に支障をきたすようになることも懸念されます。

 通常診療においては、出血源や原因を検査により確認した上で、必要な治療を行っていきます。

 

2.原因

 不正性器出血の原因は多岐にわたります。その原因の把握が、治療方針の決定には非常に大切です。

出血源別の不正性器出血の原因について、以下に記載します。

(1)卵巣からの出血

卵巣からの出血が卵管・子宮腔内を通過し、外出血として現れることは頻度は高くはありませんが、考えられる原因の中には、時に重症化し、手術治療を要するものもあるため、その可能性は忘れてはなりません。卵巣出血の原因としては、黄体血腫、異所性妊娠、卵巣腫瘍、外傷、感染症などが挙げられます。

(2)卵管からの出血

卵巣からの出血と同様、卵管の出血は子宮を伝って外出血として現れることがあります。卵管出血の原因としては、異所性妊娠、卵管悪性腫瘍、外傷、感染症などが挙げられます。

(3)子宮腔内からの出血

不正性器出血の原因として一番多いのが、子宮腔内からの出血です。その原因は、年齢(思春期、性成熟期、閉経期)によって傾向やパターンが異なります。代表的な出血の原因について、以下に記載します。

①妊娠に関連する出血
妊娠反応が陽性で、出血が起こっている場合は、化学流産、切迫流産、不全流産、進行流産等の可能性が考えられます

②子宮腔内の構造異常
比較的よく見られる原因です。以下のような原因が考えられます。

・ホルモン異常による子宮内膜増殖症
性成熟期女性によく見られる子宮内膜の良性の増殖性病変を指します。ホルモンバランスの異常、乱れにより、女性ホルモンの内膜への影響が過剰になりがちな時に発生しやすいと考えられています。

・子宮内膜ポリープ

性成熟期女性の6%が病変を有していると言われています。
子宮内膜表面から突出する結節性病変で、不正出血の原因となることがあります。通常は超音波検査(+ソノヒステログラフィー)または子宮鏡検査で診断することが可能です。発見された場合には、悪性の可能性を除外するため、子宮内膜細胞診または内膜組織診検査を行います(1) 

・粘膜下筋腫
子宮筋腫は、女性に最もよく見られる骨盤内の良性腫瘍です。子宮筋腫のうち、子宮内腔に腫瘍が突出しているものを「粘膜下筋腫」といいます。その存在部位から、他のタイプ(筋層内筋腫、漿膜下筋腫)に比べ、比較的不正出血を起こしやすいと考えられています。

・子宮腺筋症
性成熟期女性の20%が病変を有していると考えられています。子宮内膜組織が子宮筋層に存在し、それにより筋層が肥大し、子宮内腔の変形などの影響で、月経困難症、過多月経、過長月経が起こることがあります。

・帝王切開瘢痕部の影響
不正出血の原因としては稀なものです。帝王切開を受けた後の女性において、子宮内腔の瘢痕部における組織修復の際、筋層に欠損が生じた場合、月経血がその欠損部に貯留し、その貯留血液が膣に流れる時に、月経後の不正出血と捉えられることがあります。

・子宮動静脈奇形
不正出血の原因としては稀なものです。血管奇形が子宮内腔に突出している場合、子宮内膜掻爬術など子宮内を操作する処置後に、その血管奇形部の損傷から大量出血や出血の持続が起こると考えられています。出血に対して通常の治療方法(圧迫止血、ホルモン剤など)で効果が得られない時に同疾患を疑い、血管造影などの画像検査によって診断が下されます。

③排卵機能不全
初経発来後の女性、性成熟期の女性に時に見られる、無排卵もしくは希発排卵の状態とされます。性ステロイド(エストロゲン・プロゲステロン)それぞれが周期的にバランスよく分泌されていないために、不正出血の発生もよくみられます。多嚢胞性卵巣症候群や、他の内分泌疾患を合併していることもあります。

排卵機能不全の原因については、下記のように、多岐にわたります。

・排卵機能の未熟性(思春期)

・閉経前期

・過剰な運動

・摂食障害

・ストレス

・特発性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症

・高プロラクチン血症

・産後授乳期

・下垂体腺腫、下垂体腫瘍

・カルマン症候群

・下垂体周辺の外傷、および放射線照射

・シーハン症候群

・トルコ鞍空洞症候群

・リンパ球性下垂体炎

・多嚢胞性卵巣症候群

・甲状腺機能亢進症/甲状腺機能低下症

・慢性肝・腎疾患

・クッシング病

・先天性副腎過形成

・早発卵巣機能不全

・ターナー症候群

・アンドロゲン不応症

・薬剤性:低用量ピル、プロゲスチン製剤、抗うつ薬、抗精神病薬、ステロイド、抗癌剤

など。

④出血性疾患
凝固因子の異常(von Willebrand病、血液悪性疾患、慢性肝疾患による凝固因子の低下等)で不正性器出血が起こることもあります。

⑤医原性
以下の薬剤、医療器具の影響で不正性器出血が起こることがあります。

・各種ホルモン剤

・ホルモン剤以外の薬物:ステロイド剤や、高プロラクチン血症を引き起こす可能性のある薬剤(抗うつ薬、抗精神病薬、制吐剤、降圧薬、オピオイド等)

・子宮内避妊具

⑥感染症
子宮内膜炎、骨盤内炎症性疾患など感染症の影響で不正性器出血が起こることがあります。

⑦腫瘍性疾患:子宮体癌
子宮内膜から発生する悪性腫瘍です。閉経前期、閉経期の女性に発生することが多いと考えがられています。

(4)子宮頸部からの出血

①子宮頸管炎
非特異的な原因、もしくは性感染症で生じる子宮頸管部の炎症のことをいいます。その炎症の際、不正出血が伴に起こることがあります。

②子宮頸部ポリープ
子宮頸部より発生するポリープで、そのほとんどは良性です。時にその表層から出血が起こる事があります。

③骨盤臓器脱
骨盤底筋群の脆弱により生じる、子宮・膣・膀胱、直腸が骨盤内の定位置より下降・逸脱した状態をさします。妊娠・出産を経験した高齢女性に多いと考えられています。臓器が脱出している場合、その粘膜が擦過により出血を起こすことがあります。

④異所性子宮内膜増殖症
子宮・卵巣以外の組織に発生する子宮内膜症のことを、異所性子宮内膜増殖症といい、不正出血の原因となることがあります。

⑤子宮頸癌
パピローマウィルスの感染が慢性化し、子宮頸部より発生する悪性腫瘍です。前癌病変の際より、不正出血の原因となることがあります。

(5)膣からの出血

①萎縮性膣炎
低エストロゲンの状態の時に見られます。閉経後の女性に見られることが多いですが、時に授乳中の女性、稀には初経前の女児にも見られることもあります。

②膣炎、膣粘膜潰瘍
膣の炎症、潰瘍は時に感染症によって発生します。その際には、膣粘膜が脆弱となり、接触性の出血を起こしやすくなります。

③良性の増殖組織
膣に生理的に存在する腺由来の嚢胞、膣粘膜から発生するポリープの表層などから、擦過性出血が起こることがあります。

④外傷
性交渉、膣内異物(タンポン、ペッサリーなど)、骨盤部外傷等の組織損傷部から出血が起こることがあります。

⑤膣粘膜壊死
稀に、薬剤の副作用(例;スティーブンジョンソン症候群)で、膣粘膜表層の壊死性病変が発症し、出血を起こすことがあります。

⑥放射線治療による膣粘膜の脆弱化
放射線治療の副作用で、脆弱化した膣粘膜から出血が起こることがあります。

⑦膣癌
膣癌は、婦人科悪性疾患の中でも稀な疾患です。閉経後の女性に起こることが多いと考えられており、病変から出血が起こることがあります。

(6)外陰部からの出血

①感染症
性感染症の中で、外陰部に病変を作るもの(例:梅毒、単純性ヘルペス、軟性下疳、鼠径肉芽種の場合、その病変から出血が起こることがあります。

②良性病変
尖形コンジローマ、苔せんなどの組織から、擦過性に出血が起こる事があります。

③潰瘍性病変
天疱瘡などの自己免疫性疾患では、外陰部にできた水疱が破損した時に出血がみられる事があります。ベーチェット病は、外陰部潰瘍が全身症状の一つとしてみられることもあり、そこから出血が起こることもあります。

④外陰部外傷
スポーツ外傷、交通事故、性被害などによる損傷部から出血を認めることがあります。

⑤外陰癌
非常に稀な疾患で、診断される婦人科悪性腫瘍のうち、3~5%程度と言われています。病変から出血が起こる事があります。

(7)女性器以外の臓器からの出血

①尿道や肛門からの出血が時に性器出血と間違えられることもあります。

 

3.相談の目安

 出血の原因が一時的な軽いものであれば、原因の解消とともに不正性器出血も落ち着いてくることもありますが、以下のような場合には、原因検索のための受診が必要です。

・妊娠している、もしくは妊娠反応が陽性である
・出血が1ヶ月の間に複数回起こる事が続いている
・出血が2週間以上続く
・出血の量が多い
・出血以外の症状(痛み・発熱・尿路症状・胃腸症状・全身倦怠感・体重減少等)を伴う

 

4.疫学的整理(2)

 全ての不正性器出血に関しての罹患率は不明ですが、子宮からの異常出血に焦点を当てた場合、FIGOは、全世界において3~30%の性成熟期女性が異常子宮出血を経験している、と説明しています。3~30%と幅を有している明らかな原因は不明ですが、年齢別罹患率の地域による違い等の影響だろうと考えられています。

 

5.海外動向(2)

 FIGOは、不正性器出血の中でも特に罹患率の高い異常子宮出血に関する適切な対応は、特に低所得国において、以下の点で有用であると説明しています。

・妊産婦死亡率にも影響する鉄欠乏性貧血の罹患率の減少・予防
・女性の貧血症状によって損なわれている社会的生産性の改善

FIGOが2011年に提案した生殖可能女性の不正子宮出血の原因分類システムは、不正出血の診療の際に広く使用されており、日本産科婦人科学会の診療ガイドラインにおいても紹介されています。

 

6.重症化しやすい場合

以下のような場合には、重症化が懸念される為、注意が必要です。

  • 妊娠に関連する出血
  • 複数の原因が混在する不正出血
  • 貧血を合併している場合
  • 出血以外の症状を伴う場合

 

7.検査・診断の方法

 不正性器出血が認められた場合には、出血元の確認と、出血の原因について同時に検索を進めていきます。比較的低侵襲の検査(内診、尿検査(妊娠検査)、画像検査(超音波検査)をまず実施し、必要な際には精密検査(子宮鏡検査、子宮頸部擦過細胞診、子宮内膜細胞診、ソノヒステログラフィー、CT、MRI、血液検査、便潜血検査等)を加えていきます(3)

 

8.検査・診断の難しさ

 女性の性器は尿路および下部消化管の近くに存在するため、女性器以外の場所からの出血が、不正性器出血と誤って判断されることもしばしばあるため、注意が必要です(例:尿道カルンケル、膀胱炎、痔等)。

 

田村 真希 産婦人科 2003年弘前大学医学部卒業。学生時代は海外での医療ボランティア活動に参加。産婦人科専門医として総合病院、クリニック勤務を経験。海外での診療経験もあり。

 

<リファレンス>

(1)産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編2020

(2)FIGO https://www.figo.org/figo-committee-menstrual-disorders

(3)アメリカ産婦人科学会 https://www.acog.org/patient-resources/faqs/gynecologic-problems/abnormal-uterine-bleeding

(4)UpToDate ”Differential diagnosis of genital tract bleeding in women”