アトピー性皮膚炎|clila疾患情報

記事要約

【目次】

1.アトビー性皮膚炎とは
2.原因
3.相談の目安
4.疫学的整理
5.症状
6.検査所見
7.治療の一般方針
8.生活指導
9.民間療法とステロイド忌避について

 

1.アトピー性皮膚炎とは

  アトピー性皮膚炎は慢性の湿疹・皮膚炎のひとつです。

 湿疹(=皮膚炎)というのは立派な病名です。湿疹・皮膚炎にはかぶれ(接触皮膚炎)、手荒れ(手湿疹)、などのほか、多くの名称がつく疾患が含まれ、皮膚、正しくは表皮に炎症を起こしています。

 アトピー性皮膚炎は「アトピー素因」に基づく、慢性的に痒みや皮膚炎を生じる疾患です。日本皮膚科学会の定義では「増悪・寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」とされます。

 アトピー素因とは、①家族歴/既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれか、あるいは複数の疾患)、または②IgE抗体を産生しやすい素因、です。

 アトピーかどうか?と神経質になる方もいらっしゃいますが、乳児期では乳児脂漏性皮膚炎との鑑別は難しいこともあります。学童期から成人でも皮膚の軽度の乾燥をもとにした湿疹はなど、アトピー性皮膚炎か否かと線を引くことは難しいこともあります。無理やり線引きをするものではありません。

 学会も推奨する基本的な治療方針は、湿疹病変であれば変わりません。適切な治療で上手に病気と付き合い、コントロールして日常生活を送ることを目標にするべきでしょう。近年、新しい治療薬も出ておりますので、難治な場合は専門医のもとで治療を選択する必要があります。

 

2.原因

1)原因に関する3つの視点

原因と言い切れるものはありません。様々な観点からの研究が進んでいます。アトピー性皮膚炎の病態は、皮膚バリア、アレルギー炎症、瘙痒の3つの視点から考えます。

①皮膚バリア

アトピー性皮膚炎では皮膚バリア機能低下のため、非特異的に刺激に対する皮膚の反応が強くなっており、炎症が起こりやすい状態となっています。近年は「フィラグリン遺伝子変異」のアトピー性皮膚炎への関与が注目されています。

②アレルギー炎症

皮膚バリア機能の低下は、アレルゲンの皮膚への侵入しやすさにつながり、ダニや花粉のような「アレルゲン」には特殊な免疫反応を誘導します。

食物アレルギーについては、一般には乳児期のごく一部とされています。きちんとした検査や専門家の判断なしに食物制限を行うことは危険です。

③かゆみの原因

かゆみに関しては、ヒスタミン以外のメディエータ−の関与も想定されており、近年Th2細胞が産生するサイトカインの一つであるインターロイキン31が痒みを誘導することが報告されました。

2)遺伝的要因

 病因候補遺伝子としては様々なものが報告されていますが、決定的なものはわかっていません。

3)悪化因子

 治療を適切に行えているか、職場や日常生活の環境における抗原や刺激物の暴露、ライフスタイルや温度と湿度といった環境因子、皮膚の生理機能の変化は皮膚炎の増悪に関わります。

 かゆみの誘発・悪化因子としては、温熱、飲酒、発汗、ウール繊維、精神的ストレス、食物、飲酒などは特に重要とされています。

 

3.相談の目安

 完治しない、治療しているのに良くならない、良いかかりつけ医が見つからない、病院以外での治療を考えたい、ステロイドは嫌だ、等々、アトピー性皮膚炎の治療で悩んだらご相談ください。
情報もたくさんあり、問題となるような民間療法もあります。近年、新しい治療の選択も増えています。自己判断でなく、きちんと専門医に相談しながら治療を継続することをお勧めします。

 

4.疫学的整理

1)世界的動向

 アトピー性皮膚炎の有病率に関する世界的調査によると、日本では、6〜7歳で16.9%、13〜14歳で10.5%、世界的に見ると全体では7.3%であり、スウエーデン、イギリス、フィンランドについて有症率が高い傾向です。年齢別の有症率は、乳児で6〜32%、幼児で5〜27%、学童で5〜15%、大学生で5〜9%と幅がみられるが、全体的には年齢とともに減少しています。

 

2)日本における疫学調査

 一般に乳幼児・小児期に発症し、加齢とともに患者数は減少し、一部の患者が成人型アトピー性皮膚炎に移行すると考えられています。日本における疫学的調査では、少し古いものにはなりますが、1992年〜2002年の調査の文献的解析で、幼児で5〜27%、学童で5〜15%、大学生で5〜9%、報告者により異なりますが、年齢とともに有症率は減少する傾向が認められます。

 

3)年齢による経過

 乳児期にアトピー性皮膚炎と診断された患者を4年間追跡したところ、51%で改善、34%で症状が消失したとの報告があります。自然軽快は2〜3歳頃から認められ、50%の方が自然寛解に至る年齢は8〜9歳、16歳をすぎると全体の90%が寛解するとのことです。成人期までいたったアトピー性皮膚炎の予後についても、患者数は20歳代をピークに次第に減少し、40歳代までに約3分の2が皮膚科を受診しなくても良い程度に改善したとの結果が報告されています。

 

5.症状

1)診断基準

 アトピー性皮膚炎の診断基準は大きく3つあります。

  1. かゆみ
  2. 特徴的皮疹と分布
  3. 慢性に繰り返す経過(乳児期では2か月以上、その他では6か月以上を慢性化とする)

2)皮疹の特徴

 A. 皮疹は湿疹病変

   新旧が混在する:急性病変と慢性病変、両者が認めらる

 B.特徴的な分布

   左右対称性
   年齢による特徴がある

 アトピー性皮膚炎と診断するには上記の項目を満たす必要があり、その他のものは急性あるいは慢性の湿疹とし、経過を参考にして診断します。

 アトピー性皮膚炎も湿疹の一種ですので、多くの場合の治療方針は湿疹と同じです。アトピーかどうか、ということにこだわったり、無用に心配する必要はありません。

 しかし、下記についてはきちんと診断して除外すべきとされています。 

  ・接触皮膚炎 ・脂漏性皮膚炎 ・単純性疱疹  ・疥癬 ・汗疹 ・魚鱗癬

  ・皮脂欠乏性皮膚炎  ・手湿疹

3)年代別の特徴

  乳幼児期(2か月〜4歳)、小児期(〜思春期)、成人期(思春期以降)に分けられ、年齢によって皮疹の特徴があります。いずれも強いかゆみを伴い、一般に季節により軽快と悪化を繰り返すことが多くみられます。 

①乳幼児期

 初期には頭部および顔面にかさつきを伴う紅斑、細かい丘疹を生じ、次第に体幹にひろがります。じくじくする傾向を示し、びらん面を形成してかさぶたを付す傾向がみられ、脂漏性皮膚炎などとの鑑別がしばしば難しくなります。頭には厚い痂皮(かさぶた)、耳切れ、口囲や下顎の症状がみられます。体幹や四肢は乾燥して毛孔一致性の小さなポツポツした丘疹がみられ、鳥肌様にみえます。次第に全体に赤みを持つ紅斑が強くなり、小児期の症状へと移行します。

②小児期

 皮膚全体の乾燥が強くみられるようになります。病変は肘窩や膝裏を中心として、厚ぼったい紅斑(苔癬化といいます)が主体となります。耳切れもみられます。体幹では乾燥皮膚に伴って毛孔一致性丘疹が多発し、かゆみも強く、かき壊してかさぶたを付した湿疹病変となります。

③思春期・成人期

 基本的には小児期と同様ですが、苔癬化局面がさらに進行、拡大し、上半身を中心に広範囲にわたって暗褐色、ザラザラと乾燥した、いわゆる「アトピー皮膚」となります。重症例では、顔面のびまん性紅斑や頸部から上胸部にかけてさざ波様色素沈着が認められます。

 四肢にしこりのようになってしまう「アトピー性痒疹」がみられることもあります。

 

6.検査所見

 血清IgEは高値となりやすく、症状ともある程度の相関があります。ダニやハウスダストには反応しやすい傾向があります。血清TARC値は病勢の参考になります。

 

7.治療の一般方針

1)治療方針の立て方

 治療の目標は、「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持する」ことです。このレベルに到達しない場合でも、症状が軽微ないし軽度で、日常生活に支障をきたすような急な悪化が起こらない状態を維持することを目標とします。

 治療の基本は、①薬物療法、②外用療法・スキンケア、③悪化因子の検索と対策です。

2)外用療法

 アトピー性皮膚炎の炎症を十分に抑えるための薬剤で、有効性と安全性が十分に検討されているのは、ステロイドとタクロリムス軟膏です。

 ステロイドは強さによりランクがあり、重症度や部位によって適切な薬剤を選択する必要があります。たとえば症状が軽い時、顔面には弱めのものを通常使用します。強いものを使用していても改善傾向がみられれば弱めていきます。

 タクロリムス軟膏はステロイドとは異なる機序で炎症を抑える免疫抑制剤で、主に顔面、頸部の皮疹に対して適応があります。

 プロアクティブ(寛解維持)療法は、急性期の治療によって寛解導入した皮膚に、保湿外用薬によるスキンケアに加え、ステロイドやタクロリムス軟膏を定期的(週2回など)塗布し、寛解状態を維持する治療法です。

3)全身療法

 かゆみに対しては抗ヒスタミンH1拮抗薬内服を行います。

 アトピー性皮膚炎の治療においては、上記の外用薬にて皮膚の炎症を沈静化することが最も重要であり、眠気などの少ない抗ヒスタミン薬の内服がその補助療法として勧められます。

 重症例においてはシクロスポリン(免疫抑制薬)の併用、紫外線療法の併用なども行われます。

◆デュピクセントについて

 中等症から重症の成人アトピー性皮膚炎の方に対して2018年4月から使用できるようになった注射薬です。アトピー性皮膚炎の悪化に関与するリンパ球から分泌されるある種の蛋白(サイトカイン)をブロックして、皮膚のバリア機能の低下や炎症の悪化を防ぐのです。

 高額な注射薬であり、専門医の指導のもとで行う必要がありますが、高い効果が認められています。

4)悪化因子の検索と対策

 前述のように、食物アレルギ−の関与によることもありますが、乳児期のごく一部の方ですので、食物除去などは、専門医のもとで十分に評価を行った上で行う必要があります。

 乳児期以降では、ダニやホコリ、花粉、ペットの毛などの環境因子により悪化することがあります。(必ずしも原因ということではなく、悪化因子と理解してください)

 夏に汗により悪化することもありますが、「汗をかくこと(発汗)」と「かいた後の汗」を区別して考える必要があります。アトピー性皮膚炎では発汗機能に異常を認めることがあり、発汗機能の回復は治療目標のひとつになります。一方、「かいた後の汗」はかゆみを誘発することがあります。早めにシャワーで洗い流すなどの対策がお勧めです。

 

8.生活指導

 アトピー性皮膚炎の皮膚は、水分を保持する機能の低下、かゆみを感じやすい、皮膚の感染に弱い、などの異常があり、皮膚のバリア機能が低下しています。このため適切なスキンケア、すなわち皮膚の清潔と保湿・保護が重要です。

 毎日の入浴、シャワーは大切で、その際には、強くこすらない、石鹸やシャンプーは十分にすすぐ、かゆみを感じるほどの高い温度の湯は避けるなどの注意が必要です。

 皮膚の保護、保湿を目的とする外用薬は皮膚の乾燥防止が有用であり、入浴・シャワー後には必要に応じて塗布します。保湿剤としてはヘパリン類似物質含有製剤、尿素製剤などがあり、保護剤としては白色ワセリンなどがあります。使用感の良いものを選択して良いでしょう。

 そのほか、室内を清潔にして適温、適湿を保つ、爪を短く切りなるべく書かないようにするなどの注意も必要です。

 

9.民間療法とステロイド忌避について

 アトピー性皮膚炎は完治して終わる、という病気ではないため、様々な民間療法が存在します。昔は一時、「脱ステロイド」が注目された時期もありましたが、現在はステロイド外用薬を適切に使用することが治療の中心であることが日本皮膚科学会のガイドラインでも示されています。

 皮膚が炎症を起こしている状態で、医学的な検証がなされていない(効いた人がいる、と宣伝されている)治療に飛びついて、悪化してしまった方もたくさんいます。特にアトピー性皮膚炎の方は皮膚の感染症に弱くなっています。こういった疾患の診断が適切にできないと別の疾患で重症化してしまいますので、注意が必要です。

 もちろん症状が軽い方は、白色ワセリンなどの保湿剤のみでコントロールできることもありますが、むやみにステロイドは悪いもの、と避ける必要はありません。症状の改善に難渋することもありますが、近年は治療の選択肢も増えています。信頼できる皮膚科専門医のもとでよく相談しながら治療を継続しましょう。

 

永井 弥生   皮膚科医  皮膚科医として群馬大学病院准教授まで務め、豊富な経験を持つ。その後、医療安全担当者として大きな問題となった医療事故を発覚させ、3年半に渡って担当。医療者と患者の間のコンフリクト(苦情・クレーム・紛争等)対応の第一人者として、講演や研修などを行う。2017年オフィス風の道を立ち上げ、医療者と患者を繋ぐための活動を開始。皮膚科医としても群馬県内の病院にて診療している。

 

日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎ガイドライン 2018
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/atopic_GL2018.pdf

デュピクセントを使用される患者さんへ
https://www.support-allergy.com/atopy/