乳がん|clila疾患情報

記事要約

【目次】

1.乳がんとは
2.乳がんの種類
3.発生要因(リスク)
4.相談の目安・症状
5.疫学的整理
6.海外動向
7.ブレスト・アウエィアネス
8.診断の方法
9.治療
10.予防

 

1.乳がんとは

 乳房は母乳(乳汁)をつくる乳腺と、乳汁を運ぶ乳管、それらを支える脂肪などからなっています。乳腺には腺葉と呼ばれる15~20個の組織の集まりがあり、腺葉は乳管と多数の小葉(しょうよう)から構成されています。乳腺でつくられた乳汁は乳管を通って乳頭に運ばれます。

 

2.乳がんの種類

 乳がんの多くは乳管から発生し「乳管がん」と呼ばれます。小葉から発生する乳がんは「小葉がん」と呼ばれます。乳管がん、小葉がんは、乳がん組織を顕微鏡で検査(病理検査)すると区別できます。この他に特殊な型の乳がんがあります。

 

3.発生要因(リスク)

 乳がんの発生には、女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。体内のエストロゲンが多いこと、また体内にエストロゲンを加える閉経後のホルモン補充療法は乳がんの発生するリスクを高めます。また、初経年齢が低い、閉経年齢が遅い、出産経験がない、初産年齢が遅い、授乳経験のないことが乳がんの発生するリスクを高めます。生活習慣に関しては、飲酒、閉経後の肥満、身体活動度が低いことが乳がんの発生するリスクを高めます。その他には、乳がんになった血縁者がいる場合、乳がんの発生するリスクが高くなります。

 

4.相談の目安・症状

①乳房にいつもとは違う何らかの症状を自覚した場合 

  • しこり
  • 乳房の左右サイズの差、くぼみ、ひきつれ、むくみ、赤み
  • 乳頭の変形、へこみ、腫れ、ただれ、乳頭からの血のような分泌物
  • 脇の下のしこり

②乳がん検診、人間ドックで要精密検査となった場合。

 

5.疫学的整理

 乳がんは日本人女性のがんで最も多く、全体の20%を占めます。乳がんは年々増加傾向にあり、最近のデータでは年間9万人が新たに乳がんにかかっており、この40年間で約10倍に増えています。

 頻度としては、日本人女性の9人に1人が生涯の間に乳がんにかかり、とても身近な病気です。また、男性も乳がんにかかることがあり、乳がん全体の100人に1人が男性です。多くのがんは高齢になるほど多くなるのと比較して、日本人の乳がんは40代から60代に発症のピークがあるのが特徴です。特に40代から50代の働き盛り、子育て真っ最中の女性にも多く発症することが他のがんと大きく違います。

 

6.海外動向

 欧米では乳がん検診受診率が70〜80%と高いのと比較して、日本では約40%と低いことが問題とされています。

 

7.ブレスト・アウエィアネス

 自分の乳房の状態に日頃から関心をもち,乳房を意識して生活することを「ブレスト・アウェアネス」といいます。乳がんの早期発見・診断・治療につながる大切な生活習慣です。

「ブレスト・アウェアネス」の以下の4つの項目を実践し、習慣にすることが大切です。
①自分の乳房の状態を知るために、日頃から自分の乳房を見て、触って、感じる(乳房のセルフチェック)
②気をつけなければいけない乳房の変化を知る
③乳房の変化を自覚したら,次の検診を待たずにすぐに医療機関へ行く
④40歳になったら定期的に乳がん検診を受診する

 

8.診断の方法

 問診、視触診、マンモグラフィ、超音波検査を行い、悪性(乳がん)の可能性がある場合には、しこりなどの病変に針を刺して細胞(細胞診)あるいは組織(針生検)を採取し、顕微鏡の検査(病理検査)で悪性かどうかを診断します。乳頭から血が混ざる分泌物がある場合には、分泌物に悪性の細胞(乳がん細胞)が含まれるかどうかを顕微鏡の検査(病理検査)で診断します。

 

9.治療

 乳がんの治療は手術、薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤、分子標的治療)、放射線治療を組み合わせて行います。乳がんにはいくつかの種類(タイプ)があり、がんのタイプ、進行度、全身状態、年齢、月経の有無、そして治療に対する希望を考慮して治療が決まります。

 

10.予防

乳がんの主なリスク因子は、大きく分けて下記の5つが挙げられます。

①生活習慣:肥満、アルコール、喫煙、閉経後の運動不足、糖尿病
②更年期障害の治療のためのホルモン補充療法
③女性ホルモンにさらされている期間が長い(出産経験がない・少ない、初産年齢が高い、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い)
④授乳経験がない、授乳期間が短い
⑤遺伝性乳がん

 遺伝的要因が大きく影響しているように思われがちな乳がんですが、遺伝的要因による乳がんの発症は5-10%です。また、乳がんの約8割は女性ホルモンが悪さをすることによって発症するので、女性ホルモンにさらされている期間が長いほど、乳がんが発症しやすくなります。つまり、女性は誰でも、一定の確率でリスクにさらされていると言えます。

 上記リスクの中で、自分で乳がん予防としてできることは主に生活習慣を整えることです。高脂肪食、過度な飲酒、タバコ、運動不足はリスクが上がるのでそれらを控え、健康的な生活を心がけましょう。乳がん予防に効果的な健康食品やサプリメントはありませんので、栄養バランスの取れた食事を摂るようにしましょう。

 

田原梨絵医師 乳腺外科 2004年北海道大学医学部卒業後、聖路加国際病院にて乳腺科レジデント、浜松オンコロジーセンター乳腺科、亀田総合病院乳腺科勤務。2014年渡米、アメリカのがんセンターで乳がんの新薬の臨床研究に携わる。アメリカ在住の乳がん患者支援団体SHAREの臨床アドバイザー。

 

<リファレンス>
日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン
Disease of The Breast 5th edition
国立がん研究センター がん情報サービス