禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症|clila疾患情報

記事要約

【目次】

1.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症とは
2.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症の原因
3.疫学
4.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症の症状
5.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症の診断方法
6.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症の治療
7.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症の経過、予後

 

1.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症(CARASIL)とは

 禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症(CARASIL)は、非常にまれな遺伝子疾患です。遺伝形式は常染色体劣性遺伝で、若年成人に発症する脳小血管病変(多発性ラクナ梗塞)、早発性禿頭、変形性脊椎症を3徴とします。血管恒常性、毛周期、骨代謝に重要な役割を持つTGF-beta superfamily signalを調節しているHTRA1タンパクをコードしているHTRA1遺伝子の異常が原因であることがわかっており、日本をはじめとするアジア、ヨーロッパ、北米で報告されています。

 禿頭は10〜20歳代、腰痛や変形性脊椎症は10〜30歳代と神経症状の出現より前に認めることが多く、神経症状(認知機能障害、歩行障害、無気力や多幸、無礼になるなど気分の変化等)は30〜50歳代に発症するとされています。症状は緩徐に進行し、約3人に1人が40歳までに脳卒中を経験すると報告されています。脳卒中によって症状が悪化し、構音障害や嚥下障害がみられるようになります。
本症は確立された治療法がなく、症状は進行性で不可逆的なため平均40歳で車椅子が必要となり、徐々に日常生活においても介助が必要となります。
 

2.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症(CARASIL)の原因

 CARASILは、HTRA1遺伝子の異常が原因であることがわかっています。HTRA1タンパクのプロテアーゼ活性が機能喪失することにより、血管恒常性、毛周期、骨代謝に重要な役割を持つTGF-beta superfamily signalが調整されず、亢進することによって発症すると考えられています。しかし詳しい発症メカニズムはわかっていません。

 

3.疫学

 CARASILは、常染色体劣性遺伝の疾患であるため、両親が血族婚である場合が多くみられます。しかし約3割は血族婚でなく孤発例であると報告されています。最新のデータはありませんが、2011年の時点で28例(21家系)が報告されています。

 患者数はやや男性に多い傾向にあります。本症の報告例が日本人に多いため、本邦に特異的な疾患であると考えられていました。しかし、他の地域、民族からも報告がみられるようになったこと、遺伝子変異が多様で創始者効果※1を認めないことから本症は必ずしも本邦に特異的ではないことが示されています。

※1 「ある集団から少数の新しい個体群が確立される時に、元となる集団の遺伝的変異遺伝的多様性)の一部だけが新しい個体群に引き継がれる効果」のことを創始者効果といいます。

 

4.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症(CARASIL)の症状                                                                                                                                                                                                                                          

 

  • 初発症状としては、下肢の痙性、ふらつきなどの歩行障害を多く認めます。

  • 神経症状
    初期から歩行障害が出現します。
    徐々に気分の変化(イライラ、うつ状態、多幸感)や注意力・記憶力の低下などの認知機能障害が出現し、緩やかに進行します。
    神経症状の進行により、偽性球麻痺(構音障害、嚥下障害など)を呈するようになります。

  • 脳卒中発作
    約30〜40%が40歳までにラクナ梗塞を発症すると報告されています。脳卒中により神経症状、歩行障害が悪化することがあります。

  • 禿頭
    多くは、10〜20歳代で発症し、毛髪はびまん性で一般的な男性型脱毛症とは異なります。また、禿頭を伴わない症例も報告されており、必須の症状ではないとされています。頭部以外の体毛の喪失は認めません。

  • 腰痛、変形性脊髄症
    10〜30歳代に発症し、急性の腰痛、それに続いて下肢の痛みを呈するようになります。骨棘の形成や椎間板の変性、骨粗鬆症を伴う所見が画像上見られると報告されています。

 

5.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症(CARASIL)の診断方法

CARASILの診断は、脳のMRI所見と遺伝子検査を基に行われます。本邦における診断基準は以下のようになります。

 


 

<診断基準> 難病センターHPより引用

Definite、Probableを対象とする。

禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症( CARASIL)の診断基準

1.  55歳以下の発症(大脳白質病変又は中枢神経病変に由来する臨床症候)

2.  下記のうち、2つ以上の臨床症候ないし検査所見

a. 皮質下性認知症、錐体路障害、偽性球麻痺の1つ以上

b. 禿頭(アジア系人種40歳以下)

c. 変形性脊椎症又は急性腰痛     

3.  常染色体劣性遺伝形式又は孤発例

4.  MRI/CTで、広汎な大脳白質病変(側頭極を含むことがある。)

5.  白質ジストロフィーを除外できる(副腎白質ジストロフィー、異染性白質ジストロフィー等)

 
<診断のカテゴリー>

Definite:3、4を満たし、HTRA1遺伝子変異を認める。

Probable:5項目を全て満たすが、HTRA1遺伝子の変異検索が行われていない。

Possible:3、4を満たし、1又は2-b、2-cのいずれかを伴うもの。

 

除外項目

優性遺伝形式

10歳未満での神経症状の発症

 


 

6.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症(CARASIL)の治療

CARASILに対する確立された治療法はありません。
脳小血管の脳卒中に対する抗血小板療法や降圧療法は考慮されますが、効果についてのエビデンスはありません。

変形性脊椎症に対しては、症状に応じて通常の整形外科的治療(痛み止めなどの内服、神経ブロック、場合によっては手術)が行われています。

気分や性格の変化などに対しては、精神科医による抗精神病薬などの治療が行われることがあります。


 

7.禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症(CARASIL)の経過、予後

 CARASILは、神経症状、歩行障害などの運動障害はゆっくりと進行し、平均40歳で車椅子が必要になるといわれています。生命予後については長期観察例の報告が少なく不明です。
 また、高血圧または喫煙はHTRA1障害がある人の脳卒中発作の発症年齢や頻度に影響を与える可能性があることが指摘されています。高血圧があればその治療、禁煙を行うのが良いと考えられます。また高血圧の予防のために、減塩に努めることも大切です。


 

上野 ゆかり 整形外科医  2003年国立大学医学部卒業。整形外科医として大学病院、地域基幹病院にて臨床経験を積み、小児から高齢者まで幅広い年齢層に対応。家族の仕事により移住したフィリピンにて、邦人に対する医療アドバイス、健康診断フォローアップ事業を開始。現在はドイツ(フランクフルト )にて医療・健康アドバイザーとして活動する傍ら、医療相談、オンライン診療などで臨床活動を継続中。


 

<リファレンス>

難病情報センター 禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症(指定難病123)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4549
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4550

GeneReviews®
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK32533/

日本内科学会雑誌 第100巻 第 8 号
TGF-βファミリーシグナルの異常と遺伝 性脳小血管病―CARASILの分子病態の解析 から
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/8/100_2207/_pdf