歌舞伎症候群|clila疾患情報

記事要約

【目次】

1.歌舞伎症候群とは
2.歌舞伎症候群の原因
3.疫学
4.歌舞伎症候群の症状
5.歌舞伎症候群の診断方法
6.歌舞伎症候群の治療
7.歌舞伎症候群の経過、予後
8.歌舞伎症候群で注意したい点

 

1.歌舞伎症状群とは

 歌舞伎症候群は、1988年に本邦で初めて報告された先天性の疾患で、遺伝子の異常が原因となります。目元が特徴的な疾患で、切れ長の目に下眼瞼の外1/3が外反し、歌舞伎役者の隈取(くまどり)に似ていることが病名の由来になっています。罹患率は32,000人に1人と推定されています。

 特徴的な顔貌の他、精神・運動発達の遅延(多くは軽度〜中等度)、摂食困難、脊椎側弯など筋骨格系異常、関節弛緩性とそれに起因する関節脱臼、指先の膨らみ(フィンガーパッド)、皮膚紋理の異常、易感染性などを認めます。また、けいれん、滲出性中耳炎、難聴、先天性心疾患、眼科疾患、尿路疾患、歯科疾患など様々な合併症を起こす可能性があります。症状は患者さんによって様々で、

一人ひとり異なりますので、経過や予後にも個人差があります。

根本的な治療法は確立されていないため、治療は各症状に合わせた対症療法となります。

 

2.歌舞伎症候群の原因

 遺伝子異常による疾患であることがわかっています。現在までにKMT2D、 KDM6Aの2つの原因遺伝子が判明しています。歌舞伎症候群の患者さんのうち、約70%で上記いずれかの異常が見られますが、残り30%の患者さんには見られません。したがって他にも原因遺伝子が存在している可能性が示唆されています。
 KMT2D、 KDM6Aは、他の遺伝子の発現や制御に関わる物質であるヒストンのメチル化に影響を与えます。このヒストンメチル化の異常により、様々な遺伝子が誤って働いた結果、様々な症状を呈する本疾患が発症するものと考えられています。

 多くの患者さんは遺伝子の突然変異により孤発例として発症しており、本症が多発している家系はほとんど見られていません。しかし理論上、これらの遺伝子異常は1/2の確立で次の世代へ遺伝する可能性があります。

 

3.疫学

 歌舞伎症候群の本邦での罹患率は約32,000分の1と推定されています。それに基づいた計算によると本邦の患者数は約4,000人と考えられます。

また本症は、ほぼ全ての民族において報告されています。その罹患率も本邦とほぼ同様であろうと考えられています。

 

4.歌舞伎症候群の症状

  1. 顔貌の特徴
    切れ長の目、下眼瞼の外1/3の外反
    外側の薄い弓状の眉
    先端が平らな鼻、短い鼻中隔
    突出した大きな耳介

    これらの特徴はほぼ全ての患者さんに見られます。
     
  2. 精神発達遅滞
    軽症〜中等度の遅れを約90%の患者さんに認めます。重度なものは少なく、患者さんのほとんどが話すことができ、歩くことができます。
     
  3. 指尖部の隆起、皮膚紋理の異常
    フィンガー・パッドと呼ばれ、指先の掌側がぷくっと膨らんでいる所見を認めます。約90%の患者さんに認めます。
     
  4. 筋骨格系の異常
    椎体の変形、脊椎の側弯
    小指の短縮や内弯変形
    約70%に関節弛緩を認め、それによる肩、膝蓋骨、股関節などの脱臼が起こります。
     
  5. 成長障害
    出生後に始まる成長障害により、低身長となります。
     
  6. 摂食困難
    筋緊張の低下、口腔運動協調障害、嚥下困難などのために摂食が困難を約70%に認めます。経鼻胃管や胃瘻(いろう)が必要になることがあります。
     
  7. 難聴
    中耳炎を繰り返しやすく、約40〜50%に難聴を認めるといわれています。
     
  8. その他
    ・免疫機能障害による易感染性
    ・けいれん
    ・先天性心疾患(大動脈狭窄、心室中隔欠損、心房中隔欠損など)
    ・眼科疾患(斜視、眼瞼下垂など)
    ・口唇裂、口蓋裂
    ・先天性欠如歯、不正咬合などの歯科疾患
    ・腎・尿路異常
    ・早期乳房発育症
    ・高インスリン症

    高頻度なものから稀なものまで歌舞伎症候群の患者さんに合併した様々な症状が報告されています。

 

5.歌舞伎症候群の診断方法

 歌舞伎症候群の診断において重要視されているのは、身体所見です。特徴的な目の所見や指先のフィンガー・パッドが診断の助けになる所見です。
また遺伝子検査でKMT2DあるいはKDM6A遺伝子の異常が見つかれば診断は確定的です。しかし本症の身体所見を有する患者さんの約30%はこれらの遺伝子異常が見られませんので注意が必要です。

 


 

6.歌舞伎症候群の治療

 歌舞伎症候群は遺伝子異常による疾患であるため、現在のところ根本的な治療法はありません。それぞれの症状に合わせた対症療法となります。

筋緊張の低下や精神発達遅滞に対して、リハビリテーションや療育といった介入が必要になることがあります。

 

7.歌舞伎症候群の経過、予後

 精神発達遅滞を認めますが、多くの患者さんは話すことができますのでコミュニケーションは可能で、歩くことができます。
 歌舞伎症候群は非常に多くの合併症が報告されていますが、全てを発症するわけではありません。合併している疾患やその重症度には個人差があり、経過も様々です。一般的には、難治性てんかんや合併する心疾患の状態により生命予後が左右されるといわれています。しかし、長期的な予後については報告がなく、寿命については不明ですが短命ではないといわれています。

 

8.歌舞伎症候群で注意したい点

 本症と診断されたら、合併症がないかどうかを調べる必要があります。合併症に対しては定期的に専門医を受診し、フォローアップが必要です。また、成長とともに新たな合併症が発生する可能性が十分にあります。早期に合併症を発見するためにも定期的な受診は大切です。
 予防可能な合併症に対しては予防が大切です。例えば、本症の患者さんは関節弛緩性のために関節の脱臼が起こりやすいことがわかっていますので、各関節に負担をかける「肥満」にならないよう注意が必要です。また易感染性があることもわかっていますので、予防接種や手洗いなどで適切に感染症を予防することも大切です。

 

上野 ゆかり 整形外科医  2003年国立大学医学部卒業。整形外科医として大学病院、地域基幹病院にて臨床経験を積み、小児から高齢者まで幅広い年齢層に対応。家族の仕事により移住したフィリピンにて、邦人に対する医療アドバイス、健康診断フォローアップ事業を開始。現在はドイツ(フランクフルト )にて医療・健康アドバイザーとして活動する傍ら、医療相談、オンライン診療などで臨床活動を継続中。


 

<リファレンス>

難病情報センター 歌舞伎症候群(指定難病187)

https://www.nanbyou.or.jp/entry/4664

https://www.nanbyou.or.jp/entry/4663

 

GeneReviews Japan 

http://grj.umin.jp/grj/kabuki.htm

 

小児慢性特定疾病情報センター

https://www.shouman.jp/disease/details/13_01_005/

 

整形外科と災害外科59:(3) 556-559, 2010
四肢の反復性脱臼を繰り返した歌舞伎メーキャップ症候群の治療経験

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/59/3/59_3_556/_pdf